少年のあいした少女の胎に小さないのちが宿ったのは、はなの季節に契りを結んだそのあとのことだった。九つの月を経て膨らんだ腹を少女は火鉢のそばでいとしげにさすっている。少年と少女が生まれた北の領地は雪が深い。遥か昔に領主であった男が帝から千本の桜を賜り植えたため、春になるとやさしい薄紅の色をした花が咲き乱れるが、それとてもほんのたまゆらの間で、白く深い雪に閉ざされる時間のほうがずっと長かった。 足に藁を巻いた馬を外にくくりつけると、少年は濡れた銀のかぶりを振って、雪にまみれた合羽を脱ぐ。少女は来訪者に気付くと、緋色の眸を細めて、少女だけが知っている少年のまことの名前を呼んでくれた。甘く澄んだ声で名前を呼ばれると、少年の小さな胸のうちは、奥深くまで満たされていく気がする。かがんで、いとしい少女の唇につがいの小鳥がそうするような軽く啄ばむだけの口付けをする。それから、少女の手のひらが置かれた腹へと目を落とした。膨らんだ腹はもうすぐ、新しいいのちが生まれることを少年に告げている。腹にそろりと触れて、おのこだろうか、それともおなごだろうか、と呟いた。少女は長い睫毛をゆうるり伏せて、おんなのこだよ、と何故か妙に確かな口調で言う。おんなのこだよ。はなの季節にさずかった、おんなのこ。きっと里に咲く花たちのように可憐な女の子になる。腹をさすりながら少女が言うと、本当にそうなる気がしてきて、少年は目を細めて、あたたかないのちの宿る少女の胎に口付けた。早くうまれてきて。はなの季節にさずかった、いのち。はやく、きみにあいたい、きみのこえがききたい。越冬。 |
うぐいす、なく