少女の、生まれたての赤子みたいな小さな指先がつたなく白い花を折っている。
 白と金色の花。水仙。寒さで指先が赤くなった手が男の教えたとおりに紙を折ろうとする姿が愛らしく、男は頬杖をつきながら淡い微笑を口元に載せて、少女の若干危うい手つきを見守る。都、紫苑の秋はいよいよ深まって、こうして廂に出ていると、吹き付ける風がずいぶん冷たくなった。炭櫃に火をくべて、少女の小柄な身体が埋まるくらいの練り絹を重ねてやる。幼く、ちいさな少女は、男には考え付かぬような些事で身体をいたく冷やして、悪い熱を出したりする。だから男は、このかよわい籠の鳥を外に出すとき、いつも細心の注意を払った。そんな男を、長い付き合いになる武器商人の親友は、オヤバカだのカホゴだのと鼻で笑う。ええ、そうです、そのとおり。男は少女を溺愛している。
 火の弱くなってきた炭をかき棒で集めていると、できた、と少女がぽつんと声を上げた。言葉を覚え始めたばかりの少女は、まだどこか舌足らずで、声の抑揚にも乏しい。心を砕いて耳を傾けねば、その裏にひそんだたくさんの芽吹いたばかりの感情を聞き漏らしてしまう。さながら人形がごとき表情の無さで少女は男を見上げ、できあがったばかりの白と金の花を男の髪に挿し、あげる、といった。男はきょとんと目を瞬かせ、自分の黒髪に挿されたつたない花に手を添える。少女は近頃、男と同じことを好んでしたがる。今日も、日頃男が少女の長い髪をくしけずって花を挿すのを真似てみたらしい。――可愛い娘。男は眦を和らげ、ありがとう、と相好を崩す。刹那、男を見つめる透明な緋色の眸にふっと何かが射した。ゆるゆるとかたくなだった無表情が崩れて、ぎこちなく、やわらかな笑みが溶ける。厚く張った氷が解けるような。えがお。そういうとき男は、なんの前触れもなく、脈絡もなく、しんでもいい、と。思う。自分でも驚くくらいの激しさで、くるおしさで、そう思った。
 さむいでしょう。そう問うて、寒さで白くなった少女の頬を炭櫃で暖めた手のひらで包む。安堵しきった雛鳥のように目を細めて頬を寄せた少女の、たよりなく、まっしろい首筋に目を落とし、点々とあかく、夜ごとに嬲られたあとを見つけ、男はそれを。甘く慰撫したい気持ちに駆られ、けれど。けれど、男は少女の首筋をやさしく髪で隠して、代わりに閉じた瞼の上にふうわり口付ける。いっとう大事な娘にそうするように。親のあいをしらぬ少女に、あいを教えるように。男は少女を溺愛する。水仙かさりと落ちた、晩秋。

すいせん、こうばし