おんなの、ほの白い指先がはなの蕾に触れている。膨らんで、可憐な薄紅色をのぞかせたそれ。おんなは、春を見つけるのがうまい。野山を歩いていると、雪の下に隠れた蕗の薹を最初に見つけ、あるいは雪解けの水の音を最初に聞きつける。春はことのほかこのおんなをあいしているのではないかと男は思うことがある。春にあいされた、はなの名のおんな。白い息を吐いて、いとおしげに蕾を撫ぜていたおんなは、馬を樹にくくっていた男に気付いて、ふと眸を細める。呼ばれる。なまえ。おんなの声にこたえるかのように、足元の草が揺れ、まろんだ風が吹き抜けた。冬の終わりの男。男はおんなの細い肩をくるむように羽織を広げると、陽に透ける髪を揺らしてかがみ、おんなの左のやわらかなふくらみの、鼓動の上に。口付けて、冬は終わり、春が来る。

はな、ひらく


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2010.8.12