Top | Next→



Prologue



 ――ユグド歴七八一年、聖夜。
 その日、国がひとつ、滅んだ。

 美しい翠と、豊かな水と、歌声に溢れた国。
 蒼い空へと千の枝を伸ばす、聖なる樹に守られた国。
 儚くもしなやかであった姫君と、彼女を守る騎士であった男のいた国。
 それが滅びた。

 そして、消えた。
 みな、消えた。
 あとに残ったのは、大地と空、白い抜け殻のような聖樹だけ。
 その王国の名は――――――『ユグドラシル』。




『歴史観察者を騙るある神学生の手記』より


Top | Next→