二章、撃ち落されるその鳥の名は、



 一、


 矢が飛揚する瞬間というものはいつも胸に高鳴りを覚える。
 一時、場を支配する身を切るような静寂がよい。
 周りの喧騒が消え、視界が色褪せ、ただ矢の空を切る音だけが鮮明に響く。男は飛揚する矢を追うように黒と淡紫の異なる色を持つ双眸をすっとすがめた。
 吐息すらひそめてしまうほどの静寂ののち、ぽとりと一羽、小鳥が地に落ちる。その白い胸は男が先ほど放った矢によって射抜かれていた。
 おお、と場がどよめく。
 ――さすが、月詠(つくよみ)さま。
 ――文武に秀でたことよ……
 数多の賞賛を向けられながらも、中心にいる黒衣の男は眉をぴくりとも動かさず無表情でいる。周りの声を振り払うように男は弓を下ろした。彼が心惹かれるのは矢が飛揚するその瞬間だけ、矢じりが鳥の柔らかな胸を射抜くその瞬間だけであって、あとのことはもはや己の関心外なのである。
 しかしそのような男の心中を周りは知らぬ。これもまた、ある意味で己の関心外のことであるのだろう。立ち去る男へ一時羨望や畏怖の混じった視線を送ってから、男たちは矢に射抜かれた小鳥へ目を移し、衣の袖で口元を隠しながら尋ねあう。
 さて、落とされた鳥の名は何であったか――。


 鹿の啼く声が物悲しい、秋の都・紫苑(しぞの)である。